胃カメラを行った際、食道や十二指腸については異常がなければ「異常なし」とのみ記載することが多いですが、胃については必ず「萎縮」の有無を記載します。
その理由は、萎縮の有無・程度によって胃癌発生リスクが大きく異なるためです。
内視鏡レポートで「萎縮性胃炎」と記載されている場合、それは単なる“胃荒れ”ではなく、胃癌リスク評価を含んだ所見です。
「萎縮」とは、慢性的な炎症により胃粘膜が障害され、薄く脆弱になった状態を指します。
正常胃粘膜は、
- ピンク色
- 平滑
- 血管透見なし
ですが、萎縮が進行すると、
- 白色調
- 凹凸不整
- 血管透見像
などが目立つようになります

慢性胃炎・萎縮性胃炎の最大の原因は、Helicobacter pylori infection です。
幼少期に感染したピロリ菌が胃内に定着し、慢性的炎症を惹起します。
ピロリ菌に対する免疫反応が持続することで、胃粘膜障害が進行し、
• 胃潰瘍
• 十二指腸潰瘍
• 胃癌
のリスクが上昇します。
萎縮は胃前庭部から口側へ進行します。
木村・竹本分類では、
• C0–C3
• O1–O3
に分類され、萎縮範囲が広いほど胃癌リスクは高くなります。
報告によって差はありますが、
• C0/C1を基準とすると
• C2/C3で約13倍
• O1/O2で約27倍
• O3で約60倍
程度まで胃癌発生率が上昇するとされています。
つまり、
「萎縮あり」は単なる所見ではなく、
“将来的な胃癌発生母地”を意味します。
除菌により炎症進行にはブレーキをかけられます。
ただし、既に生じた萎縮は完全には戻りません。
そのため除菌後も、
• 萎縮範囲
• 胃癌既往
• 胃粘膜所見
などに応じた内視鏡フォローが必要になります。
近年、内視鏡医の間で認識が広がっているのが Autoimmune gastritis です。
以前は稀と考えられていましたが、実際には一定頻度存在すると考えられています。
自己免疫性胃炎では、
- 抗胃壁細胞抗体
- 抗内因子抗体
などの自己抗体により壁細胞が障害されます。
その結果、
- 胃酸分泌低下
- 無酸状態
- 高ガストリン血症
を来します。
さらに、
- 鉄欠乏
- ビタミンB12欠乏
- 悪性貧血
につながります。
橋本病など他の自己免疫疾患を合併することも少なくありません。
ピロリ関連萎縮では、前庭部優位に萎縮が進行します。
一方、自己免疫性胃炎では、
- 前庭部萎縮が軽度
- 胃体部優位萎縮
- 穹窿部主体
となることが多く、いわゆる「逆萎縮」を呈します。
このパターンを認識していないと見逃します。
また、自己免疫性胃炎では尿素呼気試験偽陽性を来すことがあります。
その結果、
- 除菌
- 判定陽性
- 再除菌
- また陽性
を繰り返す、いわゆる「泥沼除菌」に陥ることがあります。
除菌不成功=耐性菌と決めつけず、内視鏡像との整合性を確認することが重要です。
診断は総合的に行います。
- 内視鏡
- 病理
- 抗胃壁細胞抗体
- 抗内因子抗体
- ガストリン値
- ペプシノゲン
などを組み合わせて判断します。
AIGでは高ガストリン血症を背景に、
- 胃癌
- 胃神経内分泌腫瘍(NET)
のリスクが上昇します。
実際、ピロリ陰性胃癌と思われた症例を精査すると、AIG背景であることは少なくありません。
ピロリ胃炎には除菌という介入があります。
一方、自己免疫性胃炎には現時点で根本治療がありません。
そのため重要なのは、
- 胃癌早期発見
- NET早期発見
- 定期内視鏡フォロー
となります。
当院では年1回程度の上部内視鏡フォローを推奨しています。
萎縮性胃炎は単なる慢性胃炎ではなく、胃癌リスク評価そのものです。
また近年は、
- ピロリ関連胃炎だけでなく
- 自己免疫性胃炎
の認識も重要になっています。
特に、
- ピロリ陰性高度萎縮
- 胃体部優位萎縮
- 鉄欠乏やB12欠乏
- 他自己免疫疾患合併
などを認める場合には、自己免疫性胃炎を積極的に疑う必要があります。
胃カメラで「萎縮」を見るということは、単に胃炎を診断しているのではなく、“将来の胃癌リスクを読んでいる”ということだと思われます。